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TVアニメ好評放送中!『うしおととら』初代担当編集・武者正昭氏に連載当時の思い出を聞く!!

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TVアニメも好評放送中、完全版単行本の刊行も順調な、伝説のコミック『うしおととら』。その初代担当編集として、"新人"藤田和日郎に伴走した編集者の武者正昭氏に、当時の思い出や、作品の魅力について、お話をうかがった。


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――今回は『うしおととら』のテレビアニメ放送、完全版の刊行を記念してお話をうかがいにきました。


 もう25年以上前のことですから、断片的には覚えていますが、前後関係は少しあやふやです。これ(完全版1巻に付属しているおまけ本。『うしおととら』試作段階のネームが掲載されている)も、見たかどうか覚えがないんだよね。たぶん、僕に見せる前に自分でにボツにしていたものだと思うんだけど...。


――『うしおととら』が生まれるまでには、ものすごい苦労があったという話は有名ですよね。藤田先生と武者さんのあいだでのネームのやりとりは、12回もあったとか。


 僕の方では正確な回数は覚えてないけど、藤田さんがそういってるなら、そうなのかな。でもね、それに関していうと、彼はよく「ずっとボツだった」というような言い方をするけれど、僕の言い方でいえば、あれは「ボツ」にしていたわけじゃなくて、あくまで「リクエストをしていた」だけ(笑)。すごく才能のある、底の知れない新人だと思っていたので、「もっとやれるでしょ?」という気持ちで接していた、というだけなんですよ。


――そもそもおふたりの出会いはどんなものだったのでしょう?


 今でもやってますけど、ウチの会社では「小学館新人コミック大賞」という新人賞があるんですね。その1988年に開催された第22回で、藤田さんが「連絡船奇譚」で入選して、それで僕が担当編集になったんです。
 新人作家というのは、作者本人だって、じぶんが何をどう描けるかわかっていない段階なんです。でも「連絡船奇譚」の中には、『うしおととら』につながる、いろんなものがありましたよね。「熱いものが描ける」とか、「怖いシーンが得意だ」だとか。「アイデアのユニークさ」というのもそう。だから、何か大きなものができるはずだと思って、自然と要求が厳しくなった(笑)。
 でも、掲載された『うしおととら』の1話に関しては、直しを入れてないはずですよ。藤田さんから上がってきたものがそのまま。もともとは、「少年サンデーコミックグランプリ」という、連載に繋がる読み切り作品のコンペ企画に参加するためのものでね。この企画の第1回で大賞を受賞して連載になった作品が、河合克敏さんの『帯をギュッとね!』で、『うしおととら』は第2回の入賞作だった。大賞は別の作品(『音吉君のピアノ物語』林倫恵子)がとって、それも連載になっているんですが、『うしおととら』も面白かったので、連載にしようという話になったんです。
 賞に応募することになった、第1話の最終形のネームを見たときは、本当にびっくりしました。何も足すところも、引くところもない。こちらがそう言うと、藤田さんも驚いてましたね(笑)。「なんでこんなネームができたの?」って聞いたら、本人も「わかりません。ある日描いたら出来ました」って。不思議だったなあ。


――その後、武者さんは序盤の、作品のフォーマットが固まっていく時期をご担当されていたわけですよね。どんなやりとりをされていたのでしょう?


 「カッコいい男って、どんなヤツだろう?」という話をしていた覚えはあります。それが当時、僕のテーマだったんです。僕が思ったのは、簡単に言っちゃえば、「自己犠牲の精神」かな、と。他人のために己のすべてを投げ出す。潮も、連載の中で何回もやるじゃないですか。ただ、藤田さんがそこを意識したのかどうか、自然にそうなったのかは、わからないです。
 うしおととらの関係は「ボケとツッコミ」で行こう、という話もしていましたね。あとは、ロード・ムービー的な展開になっていったわけですけど、そこははじめにかなり話してました。ただ、「ロード・ムービーにしよう」というより、自然と「この設定でこのキャラなら、ロード・ムービーになっていくだろうね」と。
 あとは光覇明宗の組織図を作ったり、物語はらせん状に核心に向かって進んでいくべきではないかとか話したり...。


――なるほど。


 それ以外だと、ちょっとしたことです。そのころ那須高原に旅行することがあって、殺生石を見たんですね。そこで知った九尾の狐の話が面白いなと思って藤田さんに話したら、白面の者というアイデアが出てきた。「ジョン・ローンって俳優がカッコいいんだ。彼みたいなちょっと暗いものを背負っているキャラはいいんじゃない?」って話したら、鏢(ヒョウ)というキャラクターが生まれたり、「うちの近所の小さな祠が、ビル建てるというので壊されちゃったんだけど、これは絶対良くないよ」なんて話をしたら、餓眠様のエピソードができたり。餓眠様の話でビルでの戦いが出てくるのは、当時流行っていた映画『ダイ・ハード』の影響で、これも雑談で話題に出たんですよね(笑)。私がちょっとアイデアをいうだけで、彼がパーッと話を作っちゃう。だからあまり、根掘り葉掘り打ち合わせをするようなことはなかったです。


――生活の中で受けた刺激が作品に反映されていたんですね。


 そう。藤田和日郎という作家のすごいところは、全然アイデアにつまらないところですよ。まったくアイデアが出てこないということは、たぶん、連載中になかったんじゃないかな。だから、編集の主な仕事は、話が主に広がりすぎてちゃって「溜め」がなくなるのを避けることでした。『うしとら』の章が細かく区切られていて、そのひとつひとつのエピソードが大体、4回、長くても5、6回で終わるのは、そういうことですね。藤田さんの場合は、そういう形でタガを嵌めた方がうまくいくかと思った訳です。


――武者さんがのちに担当された『邪眼は月輪に飛ぶ』も、当初の予定よりボリュームが増えたんですよね?


 そうです。連載4回分といってたのに、気がつけば単行本一冊分になっていた(笑)。まるで尽きることのない井戸ですよ。素晴らしいですよね。普通、マンガ家というのは、どこかでアイデアが枯れてしまいがちなのに。



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ありがとう!小学館ビル ラクガキ大会で藤田和日郎氏が壁に描いた武者氏とのヒトコマ



――「うしおととら」の連載当初の読者からの反響はいかがでした?


 4話までは人気がなかったですね。そこから先は順調でしたけど。おそらく、読者は最初、びっくりしちゃったんだと思うんです(笑)。当時の「サンデー」は明るいライトな路線のものが多かったんだよね。高橋留美子さんとか、あだち充さんとかみたいな。そこにすごい描き込んだ絵柄で、とてつもなくエグいキャラクターがバーン! と出るわけでしょ。びっくりしますよね(笑)。実際、当時の「サンデー」では、雑誌を開かなくても外から見ただけで、どこが『うしとら』のページか、すぐわかるんですよ。描き込みもすごいし、断ち切り(=ページの余白がない)のコマばかりだから、『うしとら』のところの18ページ分だけ地層みたいに雑誌の天地とか小口が黒くなってる(笑)。


――ああ! なるほど。


 当時から関係者のあいだでは、話題になっていました。でも、それくらいの半端じゃない過剰感、エネルギーの込め方が、作品の魅力につながっていたんでしょうね。


――90年代「サンデー」全体の雰囲気というのは、武者さんの目にはどう映っていたのでしょう?


 熱気があったと思いますね。連載作品も充実してた。だから、新人がそこに食い込むのは本当に大変で。よほどエネルギーを注ぎ込まなきゃ成功しないだろうと思っていました。作家ももちろん、私も過剰にエネルギーを入れないとダメだ、軽く流すくらいじゃ勝てない、と感じていました。そもそも新人というのは、なかなか人気を穫れないものですから。最初から人気があった新人なんて、私が知っている限りでは、ほとんどいないですよ。後年成功した人でも、新人として初めて作品が載ったときは、アンケートで人気がなかったなんて人が多いですね。


――当時デビューされた方には、今でも現役でご活躍されている方が多いですよね。藤田先生や、さきほどお名前が出た河合先生以外にも、椎名高志先生、村枝賢一先生、久米田康治先生などなど、錚々たる方がいらっしゃいます。


 作家の層が厚かったから、その中で、自分の個性とアイデアでどうやって連載の「壁」を乗り越えようかと、みんな必死になってがんばっていたんだと思うんですよ。「ちょっとおもしろいな」くらいじゃ上には行けない、というのが、誰もが感じていましたから。そういうことじゃないですかね。


――最後に、二十年以上読み継がれ、今、また新たなファンを獲得しようとしている、『うしおととら』の魅力のコアはどんなところにあるのか、初代担当編集としてのご意見をうかがえますか?


 潮のキャラクターのシンプルなところじゃないですかね。潮という人間のストレートさには、普遍性がある。人間誰しも自分はかわいいじゃないですか。それは100年前も、100年後も変わらない。そういう中で、我が身の危険を顧みないで、その場でとにかく全力を尽くすという姿には、普遍的な魅力があるんじゃないのかな、と。たぶん、10年後に読んでも、「潮みたいなヤツがいたらいいよね」ってなるんじゃないですかね。
 あとは潮ととらの喜怒哀楽溢れるバディ感でしょうか。タイトル通りにドラマを引っ張っていくふたりのキャラの強さ、絆も大きいと思います。見方によっては、この作品はとらの物語とも言えると思います。また主人公とヒロインの関係性も見ものですし、色々な楽しみ方が出来る贅沢な作品ですよね。 
ともあれ、生命の燃焼感が、キャラクターにも、作者にもあった作品ですよ。作者は燃え尽きるどころか、まだまだとても元気ですけど(笑)。



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(インタビュー/構成:前田久)

【2015/08/ 5】

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