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「キャラクターが勝手に動く、というのは感じたことがない」――『機械仕掛けの愛』業田良家氏インタビュー!(後編)

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自分のアイディアやエゴを捨て、「ストーリーがたどり着くべき普遍的な道理」にしたがって物語を閉じるという業田良家氏。第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 優秀賞受賞記念インタビュー、後編スタート!!


『機械仕掛けの愛』業田良家氏インタビュー [前編][後編]



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――よくいわれる、「何かが降りてきて描かせる」みたいなのとは違いますね。


 何かが降りてくる感じがしたことはあるけど、「キャラクターが勝手に動く」ってことは感じたことがないね。論理的に、「こんなふうに動くはずだ」のほうが強い。まず自分で考えて、こんなふうに動くはずだって話が進むでしょ、ところが最後の最後になって、自分の考えが間違ってるというかズレてるということに気づく。そのときは自分の考えを捨てて、物語が示している道理にしたがって、それを描くんだけど、その間違いに気づくのもなかなか難しいんですよね。編集者から「ここがしっくりこない」と言われて、考えて、ああそうか、ここはこうするほうが道理に近いんだ、真理に近いんだと気づくことが多い。もちろん、なんかうまくいってないなとは自分でもわかってるんだけどね。わかってるんだけど、最初に自分の中に浮かんだイメージをひっくり返すのは、自力ではなかなか難しくて。人にダメって言われて初めて、じゃあ変えてみようかなと改めて考え直すことができる。


――前半を描き進めながら、オチだけをもう一回考え直すというのはすごいです。


 締め切り前になると、もう絶対この設定でやらなくちゃいけないっていう縛りがあるから、瞬発力が出る感じもする。途中まで描いちゃってるし、時間もないわけだから、どうしてもオチを変えなくちゃいけないというプレッシャーがものすごくかかる。だから比較的短時間で自分の先入観を消して、違うものにできる力が働くのかなと。だいたい縛りがあったほうが作りやすいことも多いですよね。『機械仕掛けの愛』はロボットの話にしなくちゃいけないっていう縛りがあるから、これもすごく助かってることなんだよね。読者もロボットの話として入ってくるわけだから、それだけで説明がひとつ少なくて済む。



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――半年くらい前に考えて保留にしてた話が、いきなり形になることもありますね。


 先入観をひっくり返すのはすごく難しいけど、その先入観がないとアイディアは出ないわけですから、まず第一歩は自分の先入観というか、思い込みみたいなものがないと。で、それがうまくいかなかった場合に、最初のアイディアを別の視点で見つめ直すのは、なかなかすぐにはできなくて。時間をおいたらふとできる、みたいなこともあるし、まったく別の打ち合わせをしている瞬間に思いつくこともある。編集者の何気ない一言で、気づくことも多いからね。
 『ゴーダ哲学堂』のころは、最初のネームからほとんど変えずにそのまま描いてたけど、『機械仕掛けの愛』になってから、担当はだいたいダメ出しするし(笑)、やっぱり『哲学堂』のときよりもストーリーがまとまるほうを重視してるんで。自分の考えを押し通すよりも、ストーリーが出してくれる結論を尊重する。だから、より気づくことが多いような気がするね。
 新たなことに気づくのは、ものすごい喜びですよね。気づいてなかったことに気づく。これは川柳にも通じるところがあるんだけど、なんとなく思っていたことが、言葉にすることによって意識にはっきり残る面白さ。そういうのが好きなんでしょうね。


――基本的に一話完結で、同じロボットの話をほとんど続けないですよね。


 続けられないんですよね。


――道理が示すものを描ききって?


 でしょうね。続編を描いたら、1話目で描いたことが壊れてしまいそうな気もします。このロボットをもう1話描きたいなって思っても、描けないことが多い。


――そうなると、毎回のロボットのデザインが大変じゃないですか?


 デザインでも、誰も考えたことのないものを作りたいと常に思ってるけど、その点はまだまだできてないなと思います。常に新しいものを作りたいけれど、主人公になるような顔とか、読者が共感を持てるような人間らしさを必ず残さなくちゃいけないから、どうしても限界があるんですよね。そこはちょっとくやしいところなんです。次世代に影響を及ぼすような、人が真似するようなデザインを描いてみたいですね。



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――『機械仕掛けの愛』の各エピソードを、ネタバレしないように説明すると、何も起きてないような文章になってしまうんですよ。「担任だったロボット先生に会いに行く話」とか「しゃべる自販機が悩み相談するんですよ」とか(笑)。


 それはこういうことかもしれない。順を追って説明すると......すごく楽しいことがあって心が躍っている状態、僕は好きです。みんなもそうだと思う。でもね、もっと好きなのは、静かな心でいるとき。明鏡止水というか。激しい喜びっていうのは、すごく楽しいけど、どこかに苦しさが含まれる。心が強く動くときに、うれしいんだけど、苦しさを感じるんです。それよりも、静かな心でいるときのほうが幸せ。そのほうが喜びも深いし、長続きする。実はそれは、読者に伝えたいことのひとつでもあるんです。激しい喜びには苦しみがちょっとあって、それよりも静かな心でいるほうが人間は幸せなんじゃないかなって。
 でも、マンガにはエンターテインメントの部分がなくちゃいけない。ちょっと矛盾しますよね。そこに難しさを感じつつも、ただ刺激を与えるだけのものは絶対作りたくなくて。やっぱり何か発見があって、その発見に対する感動をしてもらいたい。そういう想いがあるから、哲学的なものとか、みんなが気づいてないことを描きたい。みんなが気づいてないことに自分が気づいて、それを提示したい。だからどうしても地味になるし、僕の話をあらすじで書いたら平凡で、何も起きてないんじゃないかみたいなものになってしまうのかもしれないね(笑)。


――そこにも発見する喜びがあるわけですね。


 目からうろこが落ちるような発見を、自分がしたいし、それを読者に伝えたい。発見する喜びを読者にも持ってほしい、そういう体験をしてほしいっていう気持ちのほうが強いので、刺激を与えて心を動かしたいわけじゃないんです。読者の心をジェットコースターのように上げたり下げたりして操作したくないんですよ。僕の本を読むことで何かを発見して、感動してもらいたい。
 で、さっき言ったように、激しい喜びには苦しさが含まれていて、それよりも静かな心でいたほうが人間は幸せなんだっていうことにも気づいてほしいと思う。テレビとかドラマとかマンガとか、刺激を与えられてわかんなくなってるけど、本当は静かな心でいるほうが幸せなはずなんだと僕は思ってる。明鏡止水のような、波の立ってない湖がきれいに景色を映すように、世界がはっきり見える幸せ。欲望とか刺激に左右されて、あたふた生きるよりも、そんなふうに静かな心を楽しめる人がひとりでも増えたほうが世の中よくなるんじゃないかと思う。


――だからファンがついている面もあるし、いっぽうでなかなか爆発的には売れないのかも(笑)


 爆発的に売れたら僕は苦しむかもしれないね(笑)。バカ売れして心乱れるよりも、静かな心で一生を終えたほうがいいのかもしれない。もちろん売れたいけどね(笑)。自分の個性からして、そうならざるを得ないのかも。人生は性格で決まるからね。性格のとおりに感じるし、性格のとおりに生きるし、性格のとおりの結果が出る。いい性格を持って生まれた人はラッキーなんだけど、そうじゃない人の場合、なるべく幸せになりやすい性格になるように、自分をつくっていくべきだろうなと。性格はなかなか変わらないかもしれないけど、自分の人生に起こる出来事の受け止め方、解釈の仕方は、自力で多少変えられるから。
 逆に言えば、変えられるのは他人の心じゃなくて、自分の心だけだからね。他人の心は変えられないもん。唯一変えられるとしたら自分の心だけなんだから、自分の心をいい方向に持っていくように生きるべきだし、それに役立つようなマンガを描きたいというのはあるかもしれない。読者が少しでも幸せになれるような考え方ができる、そういう物語を描きたいですね。だからこう見えてもね、読者には幸せになってほしいって気持ちがすごく強いんですよ。



業田良家(ごうだ・よしいえ)
1958年生まれ、福岡県出身。漫画家、京都精華大学マンガ学部客員教員。1983年にデビュー。代表作『自虐の詩』は2007年に、『空気人形』は2009年に映画化された。『機械仕掛けの愛』で2013年に第17回手塚治虫文化賞 短編賞を受賞、2015年には第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 優秀賞を受賞。


『機械仕掛けの愛』業田良家氏インタビュー [前編][後編]


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(取材・構成:根本和佳)

【2015/12/31】

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