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new装丁から見るマンガの魅力!「ジャケ萌え!」8冊目/BALCOLONY. 染谷洋平さん 『GIGANT』その3

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読むだけじゃない、見て触って嬉しい単行本。なんだかカッコイイ! 可愛い、きれい、オシャレ!そんなグッとくる「マンガの装丁」の魅力をお届けする連載企画「ジャケ萌え!」。



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今回取り上げるのは、『GIGANT』第1集(奥浩哉)。装丁を手がけたBALCOLONY.染谷洋平さんと一緒に、装丁が完成するまでの過程を振り返りつつ、これからの染谷さんの活動についても聞いてみました。
[ジャケ萌え!8冊目 その1から読む]



前線に立つデザイナーをアシストしたり、何か新しい仕事を作れないかと悶々としているところです(笑)。


──このラフは染谷さんが指定したものですか?



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このイラストラフを見るだけで、グッと引きつけられる



いえ、奥さんが描いたものです。奥さんはデザイナーの注文に沿ってイラストを仕上げてくださる方だと待永さんから聞いて「じゃあイラスト案を考えますね」と言った矢先に、奥さんのほうでアイデアが浮かんでいたらしくてこのラフが上がってきて。こういう、理屈を超えて感覚で浮かんできたものって圧倒的に正しいんですよ。漫画や絵を描くっていう表現は最終的にすごくスピリチュアルな行為というか、ナマ的なものなので。
待永さんからは、これは「奥さん曰く、ウルトラマンのポーズ的なもの」だと聞いて、何の説明もない状態でこれを見てそれがわかるのかな!? とも思いましたが、そういう理屈抜きに何か頭に引っかかる仕草だなと。イラストのラフを見て「これは変えられないな」と思いました。



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──もしかして今回、カラー口絵ってすごく多いですか?


本の仕様に関しては、第1話の痺れる始まり方、4ページの間ひとことも喋らず、カメラの動きと小物、人、建物で見せるこの最高のイントロをより厳かに読ませる仕様にしたくて。通常なら、カラー口絵が1ページ、総扉、目次が入る構成。もしくは、カラー口絵が4ページ、目次を入れるところがないからカバー袖に......っていう構成にしがちなんですが、第1話の1コマ目を読ませるまでに黒ベタのページを挟むことでタメを作りたかったんですよね。なので冒頭のカラー口絵を8ページに増やして欲しいとお願いしました。



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単行本の初期仕様案。自然な風合いとは相反する機械的な硬質感を感じさせる紙、金属感を感じさせる銀箔押し加工で「漫画らしからぬエンターテイメント感」を演出する予定だったが、コストとの折り合いがつかず断念。



──カバーじゃなくて、本体が特殊なんですね。


第1話がそれだけカッコよかったんです。映画みたいに、これから始まるぞってイントロにしたかったんで

すよね。それは本体だけではなくてカバーでも言えることなんですが、あまり映画のポスターで使われているレイアウトやギミックを忠実に再現しすぎるとただの安っぽい映画パロになってしまう。そのため、カバーデザインは映画っぽい色調加工や書体選びを行いつつも、帯とのバランスとあわせてパっと見て「漫画の単行本らしく見える」ラインを超えないよう意識して進めました。

もうひとつは、カバーにのせた時のロゴに今時の漫画には珍しい立体感が欲しくて。昔の漫画にはいっぱいありましたよね、ゴテゴテのメタルフレームのロゴ。『GIGANT』の単行本カバーもロゴの周囲0.5mm幅くらいに光沢表現を入れて、一見フラットだけどぬるっとした質感を出しました。ここに蛍光ピンクの特色を2度刷りすることで、紙の印刷物というよりも映画のタイトルのようなRGB感を狙っています。これら全ては最近の漫画装丁のトレンドから少し外すことで、どこか漫画のワクにとどまらないエンターテイメント感を表現するためです。


──袖の作者名やISBNなどは完全に映画のポスターの下のほうにあるクレジット、もしくはエンドロールの最後のほうのクレジットですよね!



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ISBNの使い方、こういうのはあまり見ないんじゃないかと思います(笑)。漫画だとそこに連載時のカラーを切り抜いて入れたりだとか、いくつか定石のパターンがありますが、どうしたら「らしくないか」を考えて、ISBNコードだとか権利関係の表記を入れてみました。
帯も漫画的文法と映画的パロディのバランスに苦労しました。映画っぽいギミックを入れすぎると漫画本らしさがなくなってしまう。漫画を読みたいお客さんにとって、手に取りにくいものになってしまうのは本末転倒なので。やっぱり売れて欲しいですからね、本来売れる作品だったものが、自分のせいで興を削いでしまうのが一番怖いです。


──そのあたり、もうちょっと聞いてみたいです。そういう恐怖心は常にありますか?


ありますよ。売れる力があるのに装丁のせいでその力を2割くらい削いじゃった......なんてこともはザラにあり得ますから。その作品自体の「魅力を装丁で増す」ことは不可能だと思ってますけど、その作品自体の「魅力を装丁で削ぐ」ことはとても簡単だと考えているので。装丁は、その作品の持つ魅力をできる限り純度の高いまま読者に届けることが役割のひとつだと考えています。すごく難しいことですけれど。
一方で、僕は昔はよく間違いがちだったんですよ。"自分が考える面白さ"でパッケージングする! そして売る! みたいな思い上がりを持っていた。特定の層に届く面白さの漫画と、老若男女あらゆる方向に届くような面白さの漫画があったら、それぞれ違ったチューニングをしないといけない。「売るべき読者に売る」ことが重要なんじゃなくて、「届けるべき読者に届ける」ことが重要なんです。目的を間違ってしまうと、作家も版元も読者も、誰も幸せにならない。



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帯のデザイン案もロゴと同様、映画的な表現と漫画的文法をどう取り込むかバランスを考えていった。最終的に左下の案をベースに詰めていくことに決定



──作品によってどこに届けるかの着地点も異なるので、自分の中の表現のストックも大事だなと思うのですが、インプットなどはどうしているのでしょうか。


いやあ、もう、出がらしですよ。僕の場合は自分が見聞きしたものなど、蓄積から切り出してリミックスしているだけなので。都度インプットはしていますが、ベースは自分の蓄積だから。最近はできる仕事が限られてきました。


──あ、名刺の肩書きもデザイナーからディレクターになっている。


名刺に偉そうな肩書きを書いておけば話が通しやすいからってだけです(笑)。前線に立つデザイナーが良いデザインを産めるようなサポートができないかとか、何か新しい仕事を作ったりできかと悶々としているところです。やっぱり若手が現在に対して一番優れた嗅覚と感性を持っていると思うし、体力も時間も持っている。そうした若手の感性が旬な時期に表に出ないようにしてしまうのは、純粋にもったいない気がするんですね。もちろん人それぞれですが、上の世代は上の世代で、
若手には無いコミュニケーション力や状況を仕込む力を持っていると思うので、互いに良い部分を出し合える好循環が作れるといいなと。あと、個人が仕舞い込んでるネタってインプットしない限りいつかは尽きるんですよ。一流の消費者でいられる人は一流のアウトプットができるけれど、疲れたら疲れたなりのところで活躍すればいい。マイルドなインプットに対して、マイルドなアウトプットの場もあるといいなあと思っています。


──すごく共感します。10代や20代の頃と同じ消費の仕方はできてない。前とは違ってきたなって折々に実感しています。とはいえ、やっぱり染谷さんは、漫画やアニメ、ゲーム好きに向けたパッケージデザインについて色々な活動をしてきた人のひとり。同人誌『オタクとデザイン』を作った時は業界関係者にとても面白がられたとか。この先、どんな方向へ進んでいくのかも楽しみです。


果たしてあれがオタクのデザインにとって良いものだったのかどうか(笑)。 『オタクとデザイン』を作ったのが2006年でしたね、懐かしい。当時はオタク分野のグラフィックデザインについて語るような専門のメディアが見当たらなかったので、色々な方に手にとっていただけましたね。


この時は若かったこともあり、この同人誌を作ることで怒りと思い上がりをもって業界に殴り込んだんですよ。そしたら色々な人の実情が見えてしまい、怒りをなくしてしまいました(笑)。
......あ! そうだ、きっと怒りがないとダメなんですよ。枯渇した人は何が枯渇しているかって、それは怒りが枯渇している。怒りがないと新しい表現は出てこない。だから怒らなくなったらダメなのかもしれない。僕、「スター・ウォーズ」はクリエイターの話だと勝手に思っているんです。フォースを手にした人間がその力を何に使うのか。名誉欲なのか、世直しなのか、復讐なのか。己が手にした力を理性をもって制御し、欲望にとらわれずに正しく使い続けるのがジェダイなんですよね。でもそこで利己的な怒りに囚われて力を行使すればダークサイドに堕ちる。怒りに任せたほうが力は出しやすいんですよ。アナキンみたいに。オビ=ワンみたいに理性的でありながらも強い力を保ち続けるのはすごく難しい。「魔法少女まどか マギカ」もそう。「私はただいい本を作りたかっただけなのに! いい本って何? 教えてよ!」みたいな(笑)。......いやいや、そういう自分の心境に沿わせた作品の読解はよくないですけどね(笑)。




ジャケ萌えMEMO
めちゃくちゃ個人的な心情を吐露していいですか...... 自分の人生に子育てと家事が以前よりも幅を占めるようになり、また、加齢に伴い1日当たりに触れられる漫画やアニメのボリュームが減ったことで、かなり凹んでいました。インプットが減ったらこの先どうなるんだろう...? けれど染谷さんのお話を聞いて、何かが少しひらけたような気がしました。 (以上、個人的心情) 心の底から、染谷さんの今後が楽しみです! どうもありがとうございました。




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「ジャケ萌え!」8冊目 [その1][その2][その3]



(ライター:川俣綾加)

フリーライター、福岡出身。デザイン・グラフィック/マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブ、『マンガナイト』などで活動中。著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』 http://ayamata.jugem.jp/



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【2018/07/17】

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