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連休中にイッキ読みもオススメ! 『ちいさこべえ』完結記念・望月ミネタロウ×松浦弥太郎トークイベントレポート!

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現代ライフスタイルのカリスマが語った
望月ワールド「日常の大切さ」


望月ミネタロウ『ちいさこべえ』(原作・山本周五郎『ちいさこべ』)の完結を記念して、作者の望月ミネタロウ氏とエッセイストの松浦弥太郎氏によるトークイベントが行われた(2015年4月2日、東京・神楽坂la kagu開催のイベント「文豪ナイト」)。松浦氏は2015年3月まで「暮しの手帖」編集長を9年間務め、個性派書店の先駆け的な存在「COW BOOKS」を主催するなど現代のライフスタイル、カルチャー界では"目利きの男"として知られる。松浦氏が「大切なことは日常の中に、当たり前の場所にある」、"日常の大切さを再発見する"傑作と称する『ちいさこべえ』。文豪・山本周五郎の時代小説を現代ホームドラマとして蘇らせた本作に込められた思いとは――。



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松浦弥太郎氏(1965年生まれ)と望月ミネタロウ氏(1964年生まれ)は同年代ということで、お互いが子供の頃に通っていたという銭湯の想い出からスタート。銭湯で悪さをすると、クリカラモンモンの怖い職人さんに本気で怒られたと昔を懐かしむ和やかな雰囲気の中でイベントは進行した。


『ちいさこべえ』で初めて原作物に挑戦した理由について望月氏は、新作を描くにあたって自分だけでは突破できない壁を越えたい、変化を求めたいということから原作付きに挑戦しようと考えたという。原作となる山本周五郎の小説『ちいさこべ』を初めて読んだ時、主人公や登場人物達は火事で両親や身寄りを失うところから物語は始まるのに幸福感のようなものを感じて、原作の人間賛歌的な部分を表現したいと考えた。


時代物の原作を、現代劇としてリメイクしたことについて、望月氏は最初は時代物としてネームを描いたところ、ファンタジーに見えてリアリティーを感じられなかったという。原作の竹を割ったような性格の主人公・茂次には感情移入し難かったので、モラトリアムの象徴として髭面にした。現代劇に決めたことで、キャラクターのディティールを作ることが楽になったという。



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望月氏は、原作は一見すると登場人物達の内面描写や台詞は割りと淡々としている。ただ自分が原作に感じた「手ごたえ」、自分が描きたいものは何かを考えた結果、原作の文章の行間の部分を描きたいんだと思い、現在の形になったと明かした。派手な事件などは起こらないが、日常の描写を丁寧に描くことでキャラクターのリアリティーを追求し、気持ちや思いを演出する。松浦氏も作品から感じ取った今作の望月ワールドの醍醐味の一つだ。


松浦氏によれば、山本周五郎は50歳くらいになると世の中のことが分かってきて初めて色々な表現ができるということを書いている。望月氏もペンネームを漢字からカタカナに変えたのが50歳を前にしてであり、今まで歩いてきた道を全否定するのではなく、なんとなく違う道を歩きたくなる時がくる、と応じた。49歳で長年務めていた「暮しの手帖」の編集長を辞めて、料理レシピサイト「クックパッド」へ転職したばかりの松浦氏も共感を示した。


続いて、『ちいさこべえ』の作中から具体的なシーンをスクリーンに映しながら、望月氏の表現を掘り下げていくことに。



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第1話の茂次とりつの見開き。キャラクターを紹介する意図で描かれたもので、望月氏はこの作品でディティールを丁寧に描こうと考えていたとのこと。松浦氏は、りつが持っている荷物が、見る人が見ればブランドまで分かるものだったり、とても凝っていて可愛らしいと語った。りつは後ろ姿、茂次も表情はほとんど見えないが、望月氏はキャラクターの心情を表す時に、意図的に顔を見せないようにして、動作や持ち物や装いなどで想像させるように今回はしたかったと語った。台詞の無いページが多いのも、原作の行間を描写しようとしていたのではという松浦氏の分析に頷く場面も。いろんな意図が詰まった第1話目の扉ページである。



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松浦氏がうれしそうに「このページなんですか?」と訊ねた、りつの着せ替えイラスト。昔からよくある内部図解のモチーフで、キャラクターのディティールを表現して作品に入り込むきっかけにしたかったという望月氏だが、女性からは下着が上下で柄が違うことを突っ込まれた、と明かして会場の笑いを誘っていた。



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望月氏は『ちいさこべえ』の執筆にあたって実際の日本家屋や大工を取材した。作品の舞台になった日本家屋は、鍵の無い襖や障子で空間が仕切られていて、物理的にではなく約束事で開けていい・悪いが成り立っていることに面白さを感じたという。ちなみに、望月氏は偶然にも山本周五郎と同じ小学校の出身で、周五郎が散歩をしていたコースと同じ場所を子供の頃によく歩いていたという。作品作りの際にも周五郎の散歩コースを歩いてみたそうだ。



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りつが家事をこなす様を台詞無しで淡々と描いたページ。望月氏の原体験にある日常の確かさ大切さを表現している。



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りつが家事をする際に巻いていた前掛け。職人に憧れているという望月氏は『ちいさこべえ』の原稿を描く時に、自分用に作ったオリジナルの前掛けを巻いて机に向かっていたそうだ。



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おにぎりを握るりつの視点から描かれた見開き。遠足の日に母親がおにぎりを握ってくれる姿が好きだったと望月氏。



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松浦氏がとても印象的だったというシーン。原作の中では書かれていない描写だが、望月氏は、山本周五郎が自作の挿絵に対して登場人物の顔を描かないで表現してほしいと希望したというエピソードに触れて、感情表現するときに表情や台詞に頼らず、所作や仕草で表現しようと考えて描いていたと改めて語った。松浦氏は茂次の握りこぶしが描かれる数が減っていくごとに、彼の感情の変化が絶妙に現れていると言う。



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手で顔を押さえ、声を殺して泣く茂次のシーン。松浦氏は実体験から男が泣くときは顔を抑えるしかないと思ったが、女であるりつは口を押さえて泣いていて、性別や性格の違いが対照的に描写されていて漫画家の観察眼に感心したと語った。



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放浪の旅をする茂次が雪山の山頂にたたずむ見開きシーン。よく見ると雪上の足跡にまぎれて、雪に倒れた人の形が描かれている。望月氏も「よく見つけましたね」と苦笑いしてみせたが、松浦氏は、とてもかっこいいシーンにもかかわらず、どこかズラさずにはいられないという望月氏の"照れ"が出ている絵で、見つけたときにはファンとしてうれしかったといい、会場の共感を得ていた。



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結婚式の場面を描いた最終回の見開き。4集の表紙で白無垢のりつを見せているのはネタバレともとれるが、望月氏の中ではこの物語は最初から二人の結婚に向かっているということを意識して描いていたので、最終巻での表紙の絵は当初のイメージ通りだという。


最後に望月氏は「放浪することと旅をすることは違っていて、旅は目的地があって帰るところがあるが、茂次はずっと自分の場所を探して放浪していた」といい、作中で茂次が子供達に「ここにいてもいいんだ」と言うシーンにも現れているように、『ちいさこべえ』は居場所を探している人の物語だと語った。居場所を求めて世界中をさすらった茂次が、放浪では何も見つけられずに、最後に自分がいつも居る当たり前の日常に居場所があることに気づいたのだと締めくくった。松浦氏は、この作品は一度読んですべてが分かるのではなく、何度読んでも何度も発見がある、その面白さを楽しんで欲しいと望月作品への思いを語った。



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4月ということで、望月氏、松浦氏よりこれから新しいことに踏み出す人たちに向けて以下のようなメッセージを送って、盛り上がったトークイベントはお開きとなった。




見ての通り、僕は生き辛い人間です。人に物事を上手く伝えることができません。けれど、その努力をしようと思ってここにいます。新年度になって新しいことがあるといろいろ壁にぶつかるだろうし、いやなことが多いのが社会ですが、僕の作品が、少しでもそんな皆さんの支えになればと思います。(望月氏)


山本周五郎さんの「泣き言は言わない」っていう言葉を皆さんに送りたいと思います。望月さんもおっしゃいましたけど、いまは生き辛い時代ですし、思い通りにいかないことだらけですけれど、泣き言を言わずに踏ん張るというか、自分を信じる、とにかく自分が思ったことを信じてそこを行くしかないと思っています。周りが何を言おうとも、やっぱり信じて前に一歩でも二歩でも進んでいくということを大事にしたいと思っています。みなさん一緒にがんばりましょう。(松浦氏)



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トークイベント終了後はサイン会が行われた。



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望月ミネタロウ『ちいさこべえ』(原作・山本周五郎)全4巻 発売中!




【2015/05/ 4】

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ちいさこべえ 1
望月ミネタロウ/山本周五郎

ちいさこべえ 2
望月ミネタロウ/山本周五郎

ちいさこべえ 3
望月ミネタロウ/山本周五郎

ちいさこべえ 4
望月ミネタロウ/山本周五郎

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